クイックアンサー(Quick Answer)
サンドブラスト(英: sandblasting、一般にはabrasive blasting=研磨ブラスト)は、硬質粒子を高速で噴射して基材表面を洗浄・粗化・仕上げする表面処理です。アルミナ(Al₂O₃)、シリコンカーバイド(Silicon Carbide, SiC)、ガーネット、ガラスビーズ、スチールショット/グリットなどのメディアが表面に衝突し、錆・塗膜・ミルスケール等の汚染物を除去し、塗装や溶射のためのアンカープロファイルを形成、あるいはマット/サテンの意匠仕上げを与えます。代表的な方式はエア式(加圧式/サクション式)、ホイール式、湿式/ベーパーブラストで、メディアの種類・粒度・速度・衝突角度が除去率と表面粗さを決定します。
目次(Table of Contents)
- 1. 定義と用語
- 2. サンドブラストの仕組み(メカニズムと主要変数)
- 3. ブラスト方式:エア式/ホイール式/湿式・ベーパー式
- 4. 研磨メディア:特性と選定
- 5. メディア比較表
- 6. 装置とシステム構成
- 7. プロセスパラメータ:粒度・速度・角度・カバレッジ
- 8. 業界別アプリケーション
- 9. 品質・計測・塗装準備性
- 10. 安全・環境・コンプライアンス
- 11. トラブルシューティングとベストプラクティス
- 12. FAQ
1. 定義と用語
サンドブラストは本来、天然のシリカ砂を用いたブラスト処理を指しました。しかし、結晶シリカ粉じんの健康リスクにより、現在はより安全な代替メディア(例:ガーネット、アルミナ、ガラスビーズ、スチール系)が主流で、総称として研磨ブラスト(abrasive blasting)が用いられます。本質は同じで、制御された速度と角度で研磨粒子を衝突させ、無数の微小インパクトにより材料除去や表面改質を行うプロセスです。
2. サンドブラストの仕組み(メカニズムと主要変数)
粒子が衝突すると運動量とエネルギーが表面へ伝達されます。角ばったメディアは微小切削・塑性掘り起こしを起こし、コーティング除去や粗さの立ち上げが速い一方、球状メディアはピーニングと洗浄に優れ、粗さを抑えた均一なサテン仕上げを得やすくなります。
- 衝突エネルギー:粒子の質量 m、速度 v に対し、エネルギー E = ½ mv2。球状粒子の直径 d、密度 ρ のとき m ≈ (π/6)ρd3 なので、E ≈ (π/12)ρd3v2。
- エネルギーフラックス:メディアの質量流量 ṁ(kg/s)のとき、表面へ与えるパワー P ≈ ½ ṁv2。わずかな速度増加でも除去率は大きく増加します。
- 粒子形状と粒度:角形 → 積極的なプロファイル形成。球状 → 穏やかな洗浄/ピーニング。粗粒は除去が速いが粗さ(Ra)上昇、微粒は仕上がりが滑らか。
硬さや密度が研磨挙動にどう影響するかの詳細は、当サイトの詳細ガイドAbrasive Materials for Blasting and Polishingおよび SiC 特化の解説Silicon Carbide Abrasives: Types, Properties, and Industrial Applicationsをご参照ください。
3. ブラスト方式:エア式/ホイール式/湿式・ベーパー式
- エアブラスト(加圧式/サクション式):圧縮空気でメディアをノズルから加速噴射。柔軟で、キャビネットやジョブショップに最適。加圧式はサクション(ベンチュリ)式より高速度。
- ホイールブラスト:回転ホイールでメディア(主にスチールショット/グリット)を高速投射。大量処理・重スケール除去・大型部品に最適で、メディアは連続回収されます。
- 湿式/ベーパーブラスト:水にメディアを懸濁させ、粉じんを大幅低減。清浄度と仕上がりの滑らかさが向上し、デリケートな基材や汚染管理が厳しい環境に有効です。
4. 研磨メディア:特性と選定
メディア選定は切れ味、仕上がり、再利用性、清浄度に直結します。
- シリコンカーバイド(Silicon Carbide, SiC):モース硬度約9.2–9.4。非常に鋭く硬い。硬質基材で高速切削。脆性があり再利用性は限定的。
- アルミナ(Aluminum Oxide, Al₂O₃):モース硬度約9。汎用性が高く、白色(高純度・低汚染)と褐色(靭性高め)など複数グレード。
- ガーネット:モース硬度7–7.5。天然鉱物で亜角状。粉じんが比較的少なく、塗膜除去や現場作業で広く使用。
- ガラスビーズ:モース硬度約6。球状で穏やかな洗浄・化粧仕上げ・ピーニングに適し、粗さ低減に寄与。
- スチールショット/グリット:高密度かつ高い再利用性。ショット(球状)は洗浄・ピーニング、グリット(角状)は塗装前の粗面化に最適。
- プラスチック/有機メディア:軟らかく、複合材・アルミ薄板・文化財修復など、母材損傷を避けたい用途で有効。
5. メディア比較表
メディア | モース硬度 | 代表密度 (g/cm³) | 形状 | 再利用性 | 代表的用途 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
シリコンカーバイド | 9.2–9.4 | ~3.2 | 角状 | 低〜中 | 硬質材の高速切削 | 非常に鋭利。脆性による粉化で粉じん多め |
アルミナ(Al₂O₃) | ~9 | ~3.9 | 角状/ブロッキー | 低〜中 | 錆・スケール除去全般 | 白色=清浄性、褐色=靭性・コスト |
ガーネット | 7–7.5 | ~4.0 | 亜角状 | 低〜中 | 現場ブラスト、塗膜除去 | スラグ系より粉じん少なく仕上がり安定 |
ガラスビーズ | ~6 | ~2.5 | 球状 | 中〜高 | サテン仕上げ、ピーニング、化粧 | 多くの金属で埋没しにくい |
スチールショット | ~4–5 | ~7.6 | 球状 | 非常に高い | ホイールブラスト、洗浄/ピーニング | 量産でサイクル当たりコストが低い |
スチールグリット | ~4–5 | ~7.6 | 角状 | 非常に高い | 塗装前プロファイル形成 | 耐久性が高く強いアンカー形成 |
プラスチック/有機 | ~3–4 | ~1.2–1.5 | 角状/不規則 | 低〜中 | デリケートな洗浄、塗膜剥離 | 母材保護(軟材・複合材)に有効 |
より詳細な特性比較や用途マトリクスは、Abrasive Materials for Blasting and Polishingをご覧ください。
6. 装置とシステム構成
- ブラストキャビネット/ブース:視認性・回収・集じんのための密閉環境。小物はキャビネット、大型は歩行型ブース。
- メディア供給:加圧ポット(高速度・高効率)またはサクション/ベンチュリ(簡便・低スループット)。ホイール式は羽根車で加速します。
- ノズル:ホウ化物系(ボロンカーバイド)、タングステンカーバイド、SiC ライナーなど。内部形状(ベンチュリ)が速度・噴射パターンを左右。摩耗に応じて交換し、性能を安定化。
- 回収・分級:サイクロン、ふるい、磁選で微粉・異物を除去し、仕上がりの安定と消費量低減に寄与。
- 集じん:カートリッジ型・バグハウス型など。視認性と作業者安全に不可欠。
- エア品質・ドライヤ:乾燥・無油の圧縮空気で凝集やノズル詰まりを防止。
7. プロセスパラメータ:粒度・速度・角度・カバレッジ
- 粒度:粗粒(例:16–36メッシュ)は重除去・深いプロファイル向け。中粒(60–120)は洗浄と仕上げのバランス。微粒(>180)は滑らかな仕上げ。
- 速度/圧力:高圧と良設計のベンチュリノズルで粒子速度が上昇。除去率は概ね v2 に比例する一方、摩耗も増加。
- スタンドオフ&角度:近距離ほど衝突が強く、約90°は切削最大。浅角は穏やかな洗浄で Ra 低減。
- カバレッジ:均一な走査速度とパターンでムラを防止。ピーニングでは Almen ストリップで強度と被覆率を検証。
- 基材感受性:アルミや複合材など柔らかい基材では、軟質または球状メディア・低圧を用い、変形や埋没を回避。
8. 業界別アプリケーション
- 防食/保護塗装:錆・ミルスケール除去と、塗装・プライマー・溶射・粉体塗装のためのアンカープロファイル形成。
- 自動車/航空宇宙:部品洗浄、スチールショットによるショットピーニング(疲労強度向上)、プラスチックメディアでの塗膜剥離(母材保護)。
- 石油・ガス/マリン:タンク・配管・船体の大規模表面処理。速度と経済性からガーネット・スチール系が主流。
- 製造/保全(MRO):バリ取り、化粧仕上げ(ガラスビーズのサテン)、接着・塗装前の前処理。
- ガラス/石材/コンクリート:エッチング・テクスチャリング・装飾仕上げ。低シリカのメディアが好まれます。
9. 品質・計測・塗装準備性
品質管理の焦点は、所定のプロファイル・清浄度を汚染最小で達成することにあります。
- 表面プロファイル(凹凸):レプリカテープや触針式で山谷を測定。コーティングはしばしば範囲(例:50–100 μm)を規定します。
- 粗さ(Ra/Rz):微粒・浅角・球状メディアで Ra を低減可能。
- 清浄度:視覚基準(ブラストグレード)で錆・スケール除去度を規定。必要に応じて塩分汚染試験でコーティング性能を支援。
- 付着性の準備性:適正プロファイル+汚染管理により、塗膜の付着と寿命が向上します。
10. 安全・環境・コンプライアンス
- シリカリスク:従来の砂は珪肺リスクのため回避。低シリカメディアの選定と有効な集じんが必須。
- PPE:送気式ブラストヘルメット、保護眼鏡・聴覚保護、手袋、防護服。
- 換気・ろ過:陰圧維持と高効率集じん。廃メディアは適切に処理。
- 騒音・人間工学:ホイール式や高圧システムは騒音大。防音・聴覚保護を徹底。
- 湿式/ベーパー:浮遊粉じんと静電気を低減し、視認性と清浄性を改善。ただし装置はやや複雑。
11. トラブルシューティングとベストプラクティス
- 仕上がりが不均一:粒度分布(微粉除去)、ノズル摩耗、圧力安定、走査の均一性を点検。
- 除去率が低い:圧力・速度を上げる、より角状/粗粒へ、スタンドオフ短縮(仕上がり要件とバランス)。
- 粗さ過大:より微粒/球状へ、圧力・角度低減、基材適合性を確認。
- 粉じん・視界不良:集じん強化、メディア破砕低減(靭性の高いメディアを選定)、圧縮空気の乾燥・ろ過。
- 埋没/汚染:敏感合金には球状/軟質メディアを使用。メディア清浄を維持し、配管の油分・水分を排除。
12. FAQ
Q1: 「サンドブラスト」と「研磨ブラスト」は同義ですか?
現在の実務ではほぼ同義です。シリカ砂の健康リスクから、施設の多くはアルミナ、ガーネット、ガラスビーズ、スチールなど代替メディアを使用し、用語としては「研磨ブラスト(abrasive blasting)」が好まれます。
Q2: 適切なメディアはどう選べばよいですか?
目的に応じて硬さ・形状を合わせます。迅速な切削・粗面化には硬く角状のメディア、穏やかな洗浄やピーニングには球状や軟質メディアを。再利用性、粉じん、汚染許容も勘案してください。
Q3: 使用圧力の目安は?
エアブラストでは一般に 60–120 psi が目安ですが、最適圧は粒度・基材・仕上げ目標で変わります。低めから開始し、Ra とスループットを見ながら段階的に調整します。
Q4: 乾式と湿式の違いは?
湿式/ベーパーブラストは水にメディアを混ぜるため、粉じんを大幅に低減し、清浄度や仕上がりが向上することが多いです。乾式は構成が簡単で一般に攻撃性が高いです。
Q5: メディアの再利用は可能ですか?
可能です。スチールショット/グリットは非常に高い再利用性、ガラスビーズは中程度、SiC やアルミナなど脆いメディアも回収・ふるい分けで数サイクルは延命できます。
Q6: 塗装準備が整っているか、どう確認しますか?
レプリカテープやプロフィロメータでプロファイルを確認し、必要なら塩分汚染も試験。規定のアンカープロファイル範囲に達しているかを確認します。
メディア基礎の追加情報:Abrasive Materials for Blasting and Polishing と Silicon Carbide Abrasives を参照してください。