炭化ケイ素(SiC)の用途完全ガイド|EV・電力変換・産業機器・通信まで

Quick Answer

炭化ケイ素(SiC:Silicon Carbide)は、高耐圧・高温・高周波での動作に優れる ワイドバンドギャップ半導体です。
従来のシリコン(Si)より絶縁破壊電界が高く熱伝導率にも優れるため、 電気自動車(EV)/ハイブリッド車、産業用インバータ、スマートグリッド、鉄道のVVVF制御、データセンター電源、5G 通信、再生可能エネルギー などの領域で、損失低減・高効率・小型化を実現します。代表的デバイスはSiC ダイオード(SBD)/ SiC MOSFETです。

SiC とは:なぜ注目されるのか

SiC(炭化ケイ素)は、Si と C が 1:1 で結合した化合物半導体で、禁制帯幅(バンドギャップ)が広いのが特徴です。 バンドギャップが広いほど高温・高電圧での動作に適し、損失(スイッチング損失・導通損失)を大幅に削減できます。 また熱伝導率が高く、発熱部品の冷却設計に余裕をもたらし、電源システムの小型化・高密度化を促進します。

SiC の価値提案:Si からの置き換え理由

項目 Si(シリコン) SiC(炭化ケイ素) 効果
禁制帯幅 ~1.1 eV ~3.2 eV 高温・高耐圧で低損失動作
絶縁破壊電界 相対的に低い 約 10 倍 デバイスを薄くでき、オン抵抗低減
熱伝導率 ~150 W/m·K ~490 W/m·K 放熱性向上・冷却系の小型化
スイッチング速度 高速 高周波化・受動素子の小型化
動作温度 ~150℃ 200℃ 以上(設計依存) 高温環境での信頼性

結果として、SiC は 効率向上・小型軽量化・システムコストの総量最適化 に貢献。
部品単価は Si より高い場合がありますが、冷却・磁気部品・筐体のダウンサイジングでトータルコスト低減が見込めます。

SiC デバイスの基礎(ダイオード / MOSFET / ハイブリッド SiC)

SiC ダイオード(ショットキーバリアダイオード:SBD)

SiC ダイオードは、逆回復時間が極めて短く、スイッチング損失の主要因である逆回復損失(Qrr)を大幅に抑えられます。 PFC(力率改善)や高速整流、フライバック/フォワードなどのスイッチング電源で、効率改善と発熱低減に直結します。
⇒ 詳細は子ページ 「SiC ダイオード」へ。

SiC MOSFET

SiC MOSFETは、高耐圧・低オン抵抗・高速スイッチングを両立。600 V~1700 V クラスでの採用が拡大しています。 EV インバータ、DC-DC、サーバー/通信電源、PV/風力インバータなど、高効率・高電力密度が求められる領域に最適です。

ハイブリッド SiC

ハイブリッド SiCは、Si IGBT + SiC SBD を同一モジュールに組み合わせ、逆回復損失の劇的削減とスイッチング損失低減を実現する構成。 既存 Si ベースのインバータでも、ハードウェア改修を最小限に効率を上げられるため、移行ステップとして有効です。
⇒ さらに詳しく:「ハイブリッド SiC」

用途① EV・ハイブリッド車(HEV/PHEV)

  • 主機インバータ:バッテリー DC をモータ駆動の AC に変換。SiC MOSFET 採用でスイッチング損失と冷却負荷を減らし、航続距離の向上に寄与。
  • OBC(On-Board Charger):SiC ダイオード + MOSFET で高周波化し、体積/重量の縮小と高効率を実現。
  • DC-DC コンバータ:12 V/48 V 系への変換で SiC 採用が進み、小型・高効率・低発熱化。
  • 急速充電器(外部機):SiC により高電圧・大電流対応、設備側の効率/出力密度を向上。

ハイブリッド SiC モジュールを活用すれば、既存 IGBT 設計から段階的に移行可能です(コスト/設計リスクのバランス最適)。

用途② 産業用インバータ・モータ制御

工場のポンプ/送風機/コンプレッサなど多数のモータ負荷に対して、SiC は省エネと電源装置の小型化を後押しします。 高周波化によりインダクタ/コンデンサのサイズを抑え、キャビネット/盤の省スペース化・軽量化に直結します。

  • FA・工作機械のサーボドライブ
  • ロボティクスの分散電源・アクチュエータ
  • UPS(無停電電源)/ 産業用直流配電

用途③ 電力変換・スマートグリッド・再生可能エネルギー

SiC は太陽光(PV)インバータ、風力コンバータ、固体変圧器(SST)、系統連系 PCSなど、 電力の高効率変換双方向化を支える中核材料です。変換段ごとの損失が低いため、 大規模設備での年間電力損失の削減に大きく貢献します。

用途④ 鉄道 VVVF・高耐圧ドライブ

鉄道駆動の VVVF(Variable Voltage Variable Frequency) は、長らく Si IGBT が主役でしたが、 高耐圧 SiC の適用により、車載機器の軽量化・省エネ化が期待されます。特に回生制動や加減速の頻繁な都市交通でメリットが顕著です。
⇒ 背景解説:「IGBT と VVVF 制御」

用途⑤ データセンター・通信電源・5G

  • サーバー/ラック電源:SiC 採用で 80 PLUS の上位グレード達成を支援、損失低減電力密度向上に寄与。
  • 5G/基地局:高電力/高周波電源の小型化と熱設計マージンの拡大。
  • エッジ/マイクロデータセンター:過酷温度条件でも安定動作。

モジュール/封止・ハイブリッド SiC の設計要点

モジュール/パッケージ設計の勘所

  • 寄生インダクタンス/容量の最小化:高速スイッチングに伴う過電圧/リンギング抑制。
  • ゲートドライブ設計:最適なゲート抵抗、ミラー効果対策、dV/dt 耐量の確保。
  • 熱設計:サーマルインピーダンス低減、TIM/基板材料(AlN, Si₃N₄ など)の選定。
  • EMI/ノイズ対策:レイアウト/シールド/スナバ設計の最適化。

ハイブリッド SiC を選ぶ理由

新規設計でフル SiC を導入できない場合、ハイブリッド SiC(IGBT+SiC SBD)は、 既存 IGBT プラットフォームを活かしながら効率アップを実現する現実的な解です。 過渡特性や EMI が緩和され、移行コスト/リスクのバランスが取りやすいのが利点です。

SiC vs Si IGBT:性能・効率・コスト比較

観点 Si IGBT SiC MOSFET 所感
導通損失 Vce(sat) に依存し比較的高い Rds(on) で低抵抗化が可能 高温時の優位性はアプリ依存
スイッチング損失 大(逆回復損失も影響) 小(高速・Qrr 小) 高周波化で受動素子が小さく
効率/電力密度 筐体/冷却のダウンサイジング可
部品コスト システム合計で最適化判断
制御難易度 成熟 高速ゆえ要配慮 レイアウト/ゲート設計が鍵

ロードマップ:材料・基板・Epi の動向

  • 基板サイズ:4→6→8 インチ化。コスト/歩留まり改善が加速。
  • エピ成長・欠陥低減:貫通転位・カロジオン欠陥の低減による信頼性向上。
  • デバイス構造:プレーナからトレンチゲートへ、高性能化が進展。
  • パッケージ:低インダクタモジュール、ダブルサイド冷却、埋め込み基板など。

FAQ(よくある質問)

Q1. 「SiC とは」何ですか?

シリコン(Si)と炭素(C)が 1:1 で結合した半導体材料です。禁制帯幅が広く、高温・高耐圧・高周波動作に適します。

Q2. 「ハイブリッド SiC」とは?

Si IGBT と SiC ダイオード(SBD)を同一モジュールに組み合わせた構成です。既存 Si 設計に近い構成のまま、逆回復損失を抑制して効率を引き上げられます。 詳細は こちら

Q3. SiC ダイオードと Si ダイオードの違いは?

SiC ダイオードは逆回復時間が極短で、Qrr が小さいためスイッチング損失を低くできます。PFC や高周波電源に有利です。 解説ページを参照ください。

Q4. IGBT と SiC MOSFET はどちらを選ぶべき?

定格電圧・周波数・コスト・効率目標で最適解が変わります。過渡的にはハイブリッド SiC、将来的にはフル SiC での高効率化が主流です。

Q5. SiC の導入で最初に検討すべきことは?

目標効率・出力密度・動作温度・EMI 設計制約を明確化し、ゲート駆動/レイアウト/熱設計の 3 点を早期に検証することです。

まとめ・製品情報

SiC は、エネルギー効率・小型化・高信頼性を両立させる次世代パワーエレクトロニクスのキーマテリアルです。 CanAbrasive では、研磨・切断・ラッピングなど SiC デバイス製造工程に適した高純度研磨材を提供しています。

用途に合わせた粒度/分級/梱包仕様をご提案します。技術的なご相談はお気軽にお問い合わせください。

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