Quick Answer
SiC ダイオード(Silicon Carbide Schottky Barrier Diode, SiC SBD)は、 高速スイッチングと高耐圧を両立した次世代の整流デバイスです。 炭化ケイ素(SiC)のワイドバンドギャップ特性により、逆回復時間が極めて短く、 高周波電力変換・PFC・EV充電器・産業用電源で大幅な効率改善を実現します。
SiC ダイオードとは?

SiC ダイオードは、炭化ケイ素をベースとしたショットキーバリア型整流素子です。 通常のシリコン整流ダイオードに比べ、高速スイッチング・高耐圧・高温動作に優れています。
特に注目されるのが逆回復時間(trr)がほぼゼロである点です。 これにより、スイッチング電力損失とノイズを劇的に削減できます。
構造と動作原理
SiC SBD の基本構造は、金属-半導体接合に基づいており、 通常の PN 接合ダイオードとは異なります。 ショットキーバリア(Schottky Barrier)は、金属と半導体の界面に形成されるエネルギー障壁で、 これが整流作用を担います。
- アノード:Ni, Ti, Mo などの金属層(ショットキー接合形成)
- 半導体層:n 型 SiC エピ層 + n⁺ 型 SiC 基板
- カソード:オーミック接合電極(Al, Ti/Al など)
通電時には金属-半導体界面を通過して電子が流れますが、 逆方向ではバリアが電子の流れを遮断することで整流動作を実現します。 SiC の禁制帯幅(約 3.2 eV)により、バリアの耐圧特性が強化され、 高耐圧(650V~1700V クラス)でも低リークで安定動作します。
Si ダイオードとの違い・利点
特性項目 | Si ダイオード | SiC ダイオード | 効果 |
---|---|---|---|
材料 | Si(シリコン) | SiC(炭化ケイ素) | 高耐圧・高温特性向上 |
逆回復時間(trr) | 数十~数百 ns | ほぼ 0 ns | スイッチング損失・ノイズ低減 |
順方向電圧降下(Vf) | ~0.7 V | ~1.3 V | やや高いが高周波で有利 |
耐圧範囲 | 100~600 V | 650~1700 V | 高電圧電源に対応 |
動作温度 | 150℃ 以下 | 200℃ 以上 | 放熱設計が容易 |
特にトータル損失(スイッチング+伝導)を考えると、SiC ダイオードは 高周波動作領域で圧倒的に優れています。結果として、小型化・軽量化・高効率化が可能になります。
主な用途と応用分野
SiC ダイオードは高耐圧・高速スイッチング特性を活かし、次のような用途に採用されています:
- EV・ハイブリッド車のOBC(オンボードチャージャ)
高効率整流と軽量化を実現。 - PFC(力率改善)回路
AC/DC 電源の高周波化と高効率化。 - 太陽光パワーコンディショナ
高耐圧・低リーク特性で高温下でも安定動作。 - サーバー/通信電源
SiC SBD による高速整流で電力密度向上。 - インバータ/コンバータ
スイッチング素子(IGBT, MOSFET)との組み合わせで損失を削減。
これらのアプリケーションでは、逆回復損失の低減とEMIノイズの削減が特に評価されています。
設計上の注意点・選定指針
- 順方向電圧(Vf): SiC SBD は Vf がやや高め。高周波動作では総損失が逆に低下します。
- 温度特性: 温度上昇に伴いリーク電流が増加する傾向があるため、放熱設計を考慮します。
- サージ耐量: 瞬間的な過電流に注意。必要に応じてスナバ回路や TVS ダイオードを併用。
- 並列動作: 温度依存性が強いため、素子ばらつきを抑える設計が必要。
他デバイスとの比較(Si, GaN)
項目 | Si ダイオード | SiC SBD | GaN ダイオード(擬似) |
---|---|---|---|
材料 | Si | SiC | GaN-on-Si |
耐圧 | ~600V | ~1700V | ~650V |
スイッチング速度 | 中 | 非常に高速 | 極めて高速 |
動作温度 | ~150℃ | ~200℃以上 | ~150℃程度 |
コスト | 安価 | 中~やや高 | 高価 |
GaN は低耐圧・高周波寄り、SiC は高耐圧・高パワー寄りの市場を担っています。 特に 650V~1700V クラスでは SiC ダイオードが主流です。
代表的な製品例・応用事例
- EV/OBC 用 1200V SiC SBD(ST, Infineon, Rohm, Wolfspeed など)
- 太陽光パワコン用 1700V SiC ダイオード
- サーバー/通信 PSU 向け 650V クラス SiC SBD
- IGBT + SiC SBD ハイブリッドモジュール
近年では Wolfspeed「C3Dシリーズ」 や Rohm「SCSシリーズ」 が業界標準化しており、 各社とも SiC エピ成長技術の改良でリーク電流を低減しつつ、高温動作信頼性を高めています。
FAQ(よくある質問)
Q1. SiC ダイオードの「逆回復時間がない」とは?
PN 接合ではキャリア蓄積により逆電流が流れますが、SiC SBD は金属-半導体接合のため、 キャリアがほとんど存在せず、逆回復電流がほぼ発生しません。
Q2. SiC ダイオードのデメリットは?
Vf がやや高いため低周波・低電圧領域では効率メリットが小さい点、コストが Si より高い点が挙げられます。
Q3. どんな回路に最適ですか?
高周波スイッチングを伴う整流回路、PFC、ブースト・フライバック・フォワード回路、EV/OBC などが典型です。