SiC(炭化ケイ素)の結晶構造と各晶型の違い|3C・4H・6Hの比較

Quick Answer(要点)

SiC(炭化ケイ素)は多くのポリタイプを持つが、実務的には 3C(立方晶)・4H・6H(六方晶) が重要。
それぞれの違いは主に 禁制帯幅・キャリア有効質量・移動度 に現れ、結果としてデバイス用途が異なる:4H-SiCは電力デバイス向けの最適解、3C-SiCは高周波向け、6H-SiCは発光・光電子用途に有利

SiCの基本特性

SiC(炭化ケイ素)は熱・物理・化学特性に非常に優れた材料です。主な特性は次のとおりです。

  • 熱伝導率:約84 W/(m·K)(銅を上回り、シリコンの約3倍)
  • 禁制帯幅:シリコンの約3倍の大きさ(結晶型により異なる)
  • 耐電界特性:シリコンよりも一桁以上高い破壊電界強度
  • 飽和電子ドリフト速度:シリコンの約2.5倍
  • 高温特性:2000℃付近で黒鉛と同等の導電性を示す場合がある
  • 耐食性:表面の SiO₂ 薄膜が酸化を抑制し、常温では多くの腐食剤に耐える
sic crystal structure differences

SiCの結晶構造(ポリタイプ)

SiCは原子の積み重なり方(原子の密堆積パターン)が多様なため、200種類以上のポリタイプ(結晶多形)が存在します。大別すると次の2系統です。

  • 立方晶(cubic, β-SiC):代表例は 3C-SiC(閃亜鉛鉱型)
  • 六方晶(hexagonal, α-SiC):代表例は 2H、4H、6H、15R など(纎亜鉛鉱型)

実務的に重要な結晶型としては 3C-SiC、4H-SiC、6H-SiC がよく取り上げられます。

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禁制帯幅(バンドギャップ)の違い

各ポリタイプの代表的な禁制帯幅は以下の通りです。

  • 2H-SiC:3.33 eV
  • 4H-SiC:3.26 eV
  • 6H-SiC:3.02 eV
  • 3C-SiC:2.39 eV

禁制帯幅が大きいほど高温動作や高耐圧用途に有利になる傾向があります(ただしデバイス設計全体での最適化が必要)。

正孔(および電子)の有効質量の違い

代表的な正孔の有効質量(自由電子質量 m0 を基準)は次の通りです。

  • 3C-SiC:正孔 1.1 m0
  • 4H-SiC:正孔 1.75 m0(六方基面に平行)、0.65 m0(基面に垂直)
  • 6H-SiC:4Hに近いがやや低め

電子の有効質量は結晶型に依存しておおむね 0.25~0.7 m0 の範囲です。
有効質量が小さいと同じ電界下でキャリアの加速が大きくなり、移動度や高周波特性に有利です。

キャリア移動度の違い

4H-SiC は電子・正孔ともに 6H-SiC より高い移動度 を示します。移動度の違いはオン抵抗(Ron)やスイッチング損失、周波数特性などデバイス性能に直結します。したがって材料選定時には結晶型による移動度差を考慮する必要があります。

総合的な性能の違いと用途

結晶型ごとの特性と適用例は以下の通りです。

  • 6H-SiC: 構造が安定、発光特性に優れるため 光電子(フォトニクス)分野 に適す。
  • 3C-SiC: 飽和電子ドリフト速度が高く、高周波・大電力デバイス に有利(ただし商用化や単結晶作製の面で課題が残る場合がある)。
  • 4H-SiC: 電子移動度が高くオン抵抗が低い、電流密度も高いことから 電力(パワー)エレクトロニクス に最適。
    現在、総合性能・実用性の観点で最も成熟している第三世代半導体材料として広く採用されています(高電圧・高温・耐放射線性を要求される用途に特に有利)。

まとめると、用途に応じて最適なポリタイプを選定することがSiC材料利用の鍵です。特に電力デバイス用途では現時点で4H-SiCが標準的な選択となっています。

FAQ(よくある質問)

Q1. なぜSiCは高温や高電圧で優れているのですか?

A1. SiCは禁制帯幅が広く、破壊電界強度が高いため高温・高電圧環境でもキャリアの制御がしやすく、リークや破壊に強い性質を示します。また熱伝導率も高いため放熱性に優れます。

Q2. 3C, 4H, 6Hのうちどれを選べばよいですか?

A2. 用途によります。
- 高周波・高速スイッチングが必要なら3C-SiC(ただし単結晶取得が難しい場合がある)。
- 光電子用途なら6H-SiC
- 電力半導体(高電圧・高電流)には現状で4H-SiCが最も実用的です。

Q3. SiCの製造で注意すべき点は?

A3. ポリタイプの制御(成長条件・基板)と欠陥管理が重要です。特にパワーデバイスでは転移欠陥や結晶欠陥がリークや信頼性低下につながるため、品質管理が鍵となります。

Q4. SiCはシリコン(Si)と比べてコストはどうですか?

A4. 一般にSiC単結晶基板やパワーデバイスの製造コストはSiに比べ高いですが、効率化と量産効果、システムレベル(冷却や電源部品の削減)でのメリットを考慮すると多くの高性能用途でトータルコストの優位性が示されています。

Q5. 4H-SiCが「第三世代半導体」と呼ばれる理由は何ですか?

A5. 第三世代半導体は「wide bandgap(広い禁制帯幅)」を特徴とし、従来のSiやGaAsより高温・高電圧・高周波に強い材料群を指します。4H-SiCはこれらの要求をバランスよく満たし、商用化が進んでいるため代表的な材料とされています。

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