SiC(炭化ケイ素)は多くのポリタイプを持つが、実務的には 3C(立方晶)・4H・6H(六方晶) が重要。
それぞれの違いは主に 禁制帯幅・キャリア有効質量・移動度 に現れ、結果としてデバイス用途が異なる:4H-SiCは電力デバイス向けの最適解、3C-SiCは高周波向け、6H-SiCは発光・光電子用途に有利。
SiC(炭化ケイ素)は熱・物理・化学特性に非常に優れた材料です。主な特性は次のとおりです。
SiO₂
薄膜が酸化を抑制し、常温では多くの腐食剤に耐えるSiCは原子の積み重なり方(原子の密堆積パターン)が多様なため、200種類以上のポリタイプ(結晶多形)が存在します。大別すると次の2系統です。
3C-SiC
(閃亜鉛鉱型)2H、4H、6H、15R
など(纎亜鉛鉱型)実務的に重要な結晶型としては 3C-SiC、4H-SiC、6H-SiC
がよく取り上げられます。
各ポリタイプの代表的な禁制帯幅は以下の通りです。
禁制帯幅が大きいほど高温動作や高耐圧用途に有利になる傾向があります(ただしデバイス設計全体での最適化が必要)。
代表的な正孔の有効質量(自由電子質量 m0 を基準)は次の通りです。
電子の有効質量は結晶型に依存しておおむね 0.25~0.7 m0 の範囲です。
有効質量が小さいと同じ電界下でキャリアの加速が大きくなり、移動度や高周波特性に有利です。
4H-SiC は電子・正孔ともに 6H-SiC より高い移動度 を示します。移動度の違いはオン抵抗(Ron)やスイッチング損失、周波数特性などデバイス性能に直結します。したがって材料選定時には結晶型による移動度差を考慮する必要があります。
結晶型ごとの特性と適用例は以下の通りです。
まとめると、用途に応じて最適なポリタイプを選定することがSiC材料利用の鍵です。特に電力デバイス用途では現時点で4H-SiCが標準的な選択となっています。
A1. SiCは禁制帯幅が広く、破壊電界強度が高いため高温・高電圧環境でもキャリアの制御がしやすく、リークや破壊に強い性質を示します。また熱伝導率も高いため放熱性に優れます。
A2. 用途によります。
- 高周波・高速スイッチングが必要なら3C-SiC(ただし単結晶取得が難しい場合がある)。
- 光電子用途なら6H-SiC。
- 電力半導体(高電圧・高電流)には現状で4H-SiCが最も実用的です。
A3. ポリタイプの制御(成長条件・基板)と欠陥管理が重要です。特にパワーデバイスでは転移欠陥や結晶欠陥がリークや信頼性低下につながるため、品質管理が鍵となります。
A4. 一般にSiC単結晶基板やパワーデバイスの製造コストはSiに比べ高いですが、効率化と量産効果、システムレベル(冷却や電源部品の削減)でのメリットを考慮すると多くの高性能用途でトータルコストの優位性が示されています。
A5. 第三世代半導体は「wide bandgap(広い禁制帯幅)」を特徴とし、従来のSiやGaAsより高温・高電圧・高周波に強い材料群を指します。4H-SiCはこれらの要求をバランスよく満たし、商用化が進んでいるため代表的な材料とされています。