近年、**炭化ケイ素(Silicon Carbide, SiC)**は、半導体デバイスから研磨材、耐火材に至るまで幅広い分野で注目を集めています。特に電気自動車(EV)や再生可能エネルギー分野では、高効率・高耐熱の次世代パワーデバイス材料として採用が拡大しています。本記事では、SiCの基本的な性質から主要な応用分野までを体系的に解説します。
炭化ケイ素は、化学式 SiC で表される炭素とケイ素の化合物です。天然では非常にまれに「モアッサナイト(Moissanite)」として産出しますが、実用的な供給はほぼすべて人工的に生成されています。
α型(六方晶系):多様な多形を持ち、高温安定型として知られる。
β型(立方晶系):室温〜1700℃程度まで安定。パワーデバイス用途で特に重要。
SiCは多数の多形(ポリタイプ)を持ち、4H-SiC、6H-SiC はパワー半導体の基板として主流になっています。
SiCは1891年、米国のエドワード・グッドリッチ・アチソンによって初めて工業的に合成されました。以来、研磨材や耐火材として利用され、近年はエレクトロニクス材料としての地位を確立しています。
SiCは、従来のシリコン(Si)と比較して数多くの優れた特性を持ちます。以下の表に代表的な数値を示します。
特性 | シリコン (Si) | 炭化ケイ素 (SiC) | 特徴 |
---|---|---|---|
融点 | 約 1,410 ℃ | 約 2,730 ℃ | 高耐熱性 |
熱伝導率 | 150 W/m·K | 490 W/m·K | 放熱性に優れる |
モース硬度 | 7 | 9 | 高硬度 |
化学的安定性 | 酸・アルカリにやや弱い | 耐食性に優れる | 長寿命材料 |
禁制帯幅 | 1.1 eV | 3.2 eV(4H-SiC) | ワイドバンドギャップ半導体 |
高耐熱性:極めて高い融点を持ち、高温環境でも安定。
高熱伝導率:放熱特性が高く、パワーデバイスで重要。
高硬度:モース硬度9はコランダム(Al₂O₃)に匹敵。
化学的安定性:酸化や腐食に強く、過酷環境で使用可能。
ワイドバンドギャップ半導体:高耐圧・高効率の半導体特性を発揮。
MOSFETや**ショットキーバリアダイオード(SBD)**で採用。
特徴:
高耐圧 → EVインバータや鉄道用電源に適用
高効率 → スイッチング損失が小さく、省エネ化に寄与
高温動作 → 冷却システムの小型化が可能
SiC粉末は研磨紙、ラッピング材、ポリッシング材として利用。
高硬度・脆性により、精密研磨や硬質材料の仕上げ加工に有効。
耐火レンガや炉材に添加され、高温耐性を向上。
鉄鋼・ガラス・セラミックス産業で不可欠な材料。
SiCセラミックス複合材料は、航空宇宙やガスタービンに応用。
軽量・高強度・耐熱性の組み合わせに優れる。
ポンプシール、バルブ部品、ベアリングなど摩耗が激しい箇所に利用。
耐摩耗性と耐食性の両立が可能。
炭化ケイ素(SiC)は、高耐熱性・高硬度・高効率半導体特性を併せ持つ先端材料です。
従来のシリコンでは限界のある高電圧・高温環境でも安定して動作できることから、次世代パワーエレクトロニクスの中心的材料として期待されています。さらに、古くからの研磨材・耐火材用途でも欠かせない存在です。
今後、EVの普及、省エネルギー化、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、SiCの需要は飛躍的に拡大していくと見込まれます。