ケイ素(Si)は、地殻中で酸素に次いで多く存在する元素であり、入手性とコストの両面で非常に有利です。 またダイヤモンド型構造を持つ結晶は高い結合エネルギーを有し、電気特性の安定性が高いことから、 半導体産業の中心的材料として「半導体の王様」と呼ばれています。
単結晶シリコンは結晶格子が一方向に揃っているため、電気特性の均一性が高く、LSIやメモリといった 半導体デバイスの基板として必須です。微細加工でナノスケールの集積回路を形成する際も、 欠陥が少ないため歩留まり向上に寄与します。
多結晶シリコンは結晶粒が多数集合した状態で、電気的特性は単結晶に劣ります。 しかし、製造コストが低く、太陽電池用基板や電子部品の材料として広く用いられています。
CZ法は最も一般的な単結晶育成方法です。石英ルツボ内で溶融したシリコンに種結晶を接触させ、ゆっくりと引き上げていきます。 特徴としては大口径(300 mm以上)のインゴットが得られる一方で、酸素不純物の混入が課題となります。
FZ法ではルツボを使わず、高周波コイルで溶融帯を移動させて結晶を成長させます。 この方法では極めて高純度の単結晶が得られるため、パワーデバイス用基板や特殊用途に利用されます。 ただし大口径化が難しく、量産性ではCZ法に劣ります。
育成されたシリコンインゴットは、ダイヤモンドワイヤソーでスライスされ、ウェーハ状に加工されます。 その後、ラッピングやCMP(化学機械研磨)により表面粗さを数ナノメートルレベルまで制御し、 デバイス製造に適した鏡面仕上げが施されます。
半導体デバイスは極めて微細なパターンで構成されるため、結晶欠陥や粒界が存在するとリーク電流や素子特性のばらつきを引き起こします。 単結晶であれば結晶構造が均一なため、高信頼性かつ高性能なIC製造が可能となります。
半導体デバイス以外にも、シリコン結晶は太陽電池、センサー、MEMSデバイスなど幅広い分野に応用されています。 特に再生可能エネルギー分野では、多結晶シリコンが主流材料としてコストパフォーマンスを発揮しています。
ケイ素の結晶は、半導体デバイスから太陽光発電まで、現代社会の基盤を支える不可欠な材料です。 今後も結晶成長技術やウェーハ加工プロセスの進化により、より高性能で低コストな電子デバイスの実現が期待されます。