炭化ケイ素(SiC)とは?総合ガイド|構造・用途・技術・製造

Quick Answer

炭化ケイ素(Silicon Carbide, SiC)は、ケイ素(Si)炭素(C)が1対1で結合した化合物セラミックスです。 高硬度(モース硬度9.5)、高熱伝導性、耐熱性、耐摩耗性に優れ、研磨材・サンドブラスト・耐火材・半導体基板など さまざまな産業分野で使用されています。
また、近年はAIデータセンターや電気自動車(EV)におけるパワーデバイス材料として注目されており、 環境・エネルギー分野のキーマテリアルとしても需要が急増しています。

1. 炭化ケイ素とは

炭化ケイ素とは

炭化ケイ素(SiC)は、共有結合性の非常に強い無機化合物で、 天然では「モアッサナイト(moissanite)」としてわずかに存在するものの、 工業的にはほぼすべてが人工的に製造されます。

モース硬度は9.0〜9.5とダイヤモンドに次ぐ硬さを持ち、 高い熱伝導率(最大490 W/m·K)と耐酸化性を備えています。 そのため、高温環境下・高摩耗条件下でも安定して性能を維持できます。

また、SiCは半導体としても機能し、ワイドバンドギャップ半導体の代表材料の一つ。 電気自動車、太陽光インバータ、AIサーバーの電力制御デバイスに使用されるなど、 近年の「炭化ケイ素ブーム」を牽引する存在です。

2. 炭化ケイ素の結晶構造と特性

炭化ケイ素結晶

炭化ケイ素は結晶構造が多様で、「ポリタイプ」と呼ばれる多数の結晶多形を持ちます。 主なものは以下の通りです。

  • β-SiC(立方晶):結晶構造は3C型。常温で安定、工業用研磨材に広く使用。
  • α-SiC(六方晶):4H-SiC、6H-SiC など複数存在し、半導体用基板に利用。

この結晶構造の違いが、電子的性質や熱伝導性の差につながります。 特に4H-SiCは高耐圧・高周波動作に優れ、EVやデータセンターの電力変換素子として主流化しています。

構造 用途
3C-SiC 立方晶 研磨材、基板、薄膜用
4H-SiC 六方晶 パワー半導体基板
6H-SiC 六方晶 高周波素子、熱放散材料

3. 炭化ケイ素の製造方法

炭化ケイ素の製造方法

代表的な製造プロセスはアチソン法(Acheson Process)です。 これは1891年に米国のエドワード・アチソンが発明した製法で、 石英砂(SiO₂)と石油コークス(C)を混合し、電気炉で約2,200〜2,480 ℃に加熱して反応させます。

SiO₂ + 3C → SiC + 2CO↑

得られた塊状SiCを冷却後、粉砕・分級してFグリット(粒度F12〜F220)やマイクロパウダー(F230〜F1200)に仕上げます。 この方法で製造されるのが一般的な「黒色SiC」および「緑色SiC」です。

一方、半導体用途では化学気相成長(CVD)や昇華再結晶法で 高純度単結晶SiCを育成し、6インチ・8インチウェーハとして供給されます。

4. 種類:黒色SiCと緑色SiCの違い

分類 純度 硬度 主な用途 特徴
黒色炭化ケイ素(Black SiC) 97〜98% 9.0〜9.3 鋳鋼・鋳鉄研削、サンドブラスト、耐火材 高靭性でコスパ良好
緑色炭化ケイ素(Green SiC) 99%以上 9.4〜9.5 ガラス・セラミックス・超硬研磨 高純度・鋭い結晶刃先

黒SiCは耐久性重視、緑SiCは精密仕上げ・電子用途重視という棲み分けがされています。 CanAbrasiveでは、両者ともFEPA規格に基づき粒度管理を行い、安定した品質を保証しています。

5. 炭化ケイ素の主な用途

  • 研磨材用途:研磨布紙、ラッピング材、サンドブラスト、ウェーハ研磨
  • 耐火・構造用:窯炉の断熱壁、耐摩耗ライナー、熱交換器部材
  • 半導体用基板:SiCウエハー、MOSFET、ショットキーダイオード
  • 放熱材料:AIデータセンター・GPU冷却モジュール、ヒートスプレッダ
  • 自動車部品:ブレーキディスク、排気センサー、EVパワーモジュール
  • 化学装置・センサー:高温反応炉、腐食環境の流体部品

とくに近年は「SiC半導体デバイス」としての用途が拡大し、 トヨタ・ルネサス・ROHMなど日本メーカーも量産を進めています。 SiCの高耐圧性により、電力変換効率が向上し、エネルギー損失を30〜50%削減できることが知られています。

6. 炭化ケイ素メーカーと日本市場

世界には多数の炭化ケイ素製造メーカーが存在します。 代表的な企業として:

  • 日本:昭和電工マテリアルズ、イビデン、ROHM、住友電工
  • 海外:Saint-Gobain(仏)、Washington Mills(米)、Erdos Metallurgy(中)
  • 新興勢力:CanAbrasive(中日向け研磨材専門)、Sanhui Abrasive(産業用SiC供給)

炭化ケイ素は、粒度、純度、結晶形、用途によって多様なグレードがあり、 研磨用・半導体用で全く異なるサプライチェーンが存在します。

7. 炭化ケイ素のMSDS / SDS(安全データシート)

炭化ケイ素は化学的に安定した無機化合物で、通常の取り扱いでは有害性は低いですが、 粉じん吸入高温作業時の酸化生成物には注意が必要です。

  • CAS番号:409-21-2
  • 外観:黒色または緑色の結晶性粉末
  • 融点:約2700 ℃
  • 安全対策:防じんマスク、ゴーグル、局所排気装置の使用
  • MSDS / SDS参照:JIS Z 7253 に準拠(CanAbrasive社および主要メーカー提供)

廃棄時は通常の無機物として産業廃棄物区分に従い処理可能であり、 爆発・可燃性はありません。

8. FAQ(よくある質問)

Q1. 炭化ケイ素はどのようにして作られるのですか?

石英砂とコークスを電気炉で加熱するアチソン法で製造されます。

Q2. 黒SiCと緑SiCの違いは?

黒SiCは靭性重視で金属研削向き、緑SiCは高純度でガラス・セラミック向けです。

Q3. 炭化ケイ素のMSDS/SDSはどこで入手できますか?

各メーカー(例:CanAbrasive、Saint-Gobain、Washington Mills)の公式サイトからPDF形式で入手可能です。

Q4. 炭化ケイ素の主な用途は?

研磨材・耐火材・半導体・放熱部材など、金属からAIチップ冷却まで幅広い用途があります。

Q5. 炭化ケイ素の結晶構造には何がありますか?

3C、4H、6H などのポリタイプ構造があります。電子素子用は主に4H-SiCです。

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